はるきげにあ的煩悩生活
鞠絵ちゃん、誕生日おめでとう!
実験的鞠絵小説(その1)
街では冬が間近になりつつある11月の連休,僕は鞠絵がいる療養所に来ていた。
こちらの高原で木々が全て葉を落とし,厳しい冬に耐える準備が完了したことを告げている。
前に来たのが9月だから,2ヶ月ぶりといったところか。
まだ夏の名残があった頃から,景色が一変している。
「先月は学校が忙しかったからなあ・・・」
言い訳のようにつぶやいた。
鞠絵へのメールは,もちろん毎日欠かしていない。
とはいえ,内容はたいしたことないものばかりだ。
今日の晩飯のメニューや高校での出来事など,日々の生活についての報告がほとんどだった。
しかし,鞠絵はそのメールにいちいち
「それでは野菜が足りませんよ」
とか,
「療養所ではこんなことがありました」
といった返事をしてくれた。
お互い携帯電話を持っているので直接話せばいいのだが,鞠絵に切なそうな声で
「もうお切りなるのですか・・・」
と言われてしまっては,なかなか切れるものではない。
以前夜中まで話し込んでしまい,翌日鞠絵が体調を崩したことがあった。
看護師さんにも注意されたこともあって,それ以降は電話を控えるようにしている。
結局,今はメール10通に対して電話は1回といった頻度に落ち着いている。
ただし,これは1週間ではなく,1日に鞠絵と交わすメールの数だ。
「お前,かなりのシスコンだよなあ」
とクラスメイトにからかわれる由縁でもある。
どうも,僕は休み時間になると携帯をいじっているらしい。
自分では自覚がないのだが。

そうしているうちに,11月に入ってしまった。
すると鞠絵から,
「兄上様,先月はお会いできませんでしたね。メールや電話でも嬉しいのですが,兄上様のお顔を直接見たいです。・・・会いたいな,会いたいな,兄上様に会いたいな。今度はいつお会いできますか?」
とあまりに直球すぎるメールが来た。
普段自分の感情を出さない鞠絵が,こんな文面のメールを出すのにどれだけ勇気が必要だったろうか。
その気持ちに気付かなかった自分の鈍さを恨みつつ,数泊分の荷物をまとめると鞠絵の療養所に向かう夜行列車に飛び乗った。
列車の中から,クラスメイト達に休日会う約束をキャンセルするメールを送る。
「お前なあ・・・」
と呆れ果てた返事が複数返ってきた。非難する言葉すら無いことから,何を言っても無駄だと思っているかもしれない。まあ,しょうがないか。

昼前に療養所に着くと,鞠絵の愛犬ミカエルが盛大に迎えてくれた。
その後ろには鞠絵が微笑みながら立っている。
「兄上様,お久しぶりです。元気でいらっしゃいましたか?」
「鞠絵ちゃん,久しぶり。こっちはもう冬だね。風邪ひいてない?」
「はい,兄上様のおかげです」
「僕は何もしていないよ?」
「いいえ,毎日メールをくださいます。それで私の心と体が温かくなるんです」
「なるほど・・・じゃあもっとメールを送ろうかな」
「なぜですか?」
「夏までに鞠絵ちゃんの水着が見たいから」
「もう,兄上様ったら」
「・・・ところでさ」
「はい」
「ミカエルにどいてくれるように言ってくれるかな。身動きが取れないんだけど・・・」
ミカエルのタックルから押さえ込みという連続攻撃を受けて,療養所の玄関でひっくり返ったままの会話だった。
ゴールデンレトリバーの巨体にのしかかられていると,さすがに苦しい。
「あ,すいません。こら,ミカエル。いけませんよ。兄上様から離れなさい。兄上様がお困りですよ」
不承不承といった様子でミカエルが鞠絵の足元に戻った。
「本当は私が兄上様の胸元に・・・」
小さく鞠絵がつぶやいたようだったが,はっきり聞こえなかった。
「え,なんか言った?」
「な,何でもないです。お部屋にご案内しますね」
少し焦った口調で僕の手を引っ張った。


(続く)
スポンサーサイト




コメント
▼この記事へのコメント<(あれば表示)

■ コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

▼この記事へのトラックバック(あれば表示)