はるきげにあ的煩悩生活
鞠絵ちゃん、誕生日おめでとう!
「桃太郎 VS Twelve Sisters!」(その4)
翌日,早朝の翼多駅。

休日の朝ともあって通勤・通学客の姿はまばらだが,観光地や帰省先に向かう多くの家族連れが,大きな荷物を持って電車を待っている。

そこに,航が本の詰まったボストンバックを抱えて到着した。

「ふう,さすがに重いな・・・さて,二人はもう来てるかな・・・?」

改札口の近くから,元気な声がした。

「アニキ,おっはよ~!」

鈴凛だった。

「にいさま,おはようございますですの!」

白雪も手を振っている。

「お,二人とも早いな。おはよう。じゃあ,さっさと電車に乗るか」

「「はーい!」」

3人は高原行きの電車に乗り込んだ。

ボックス席が空いていたので,鈴凛と白雪を窓側に座らせる。

「鞠絵ちゃんに会うのも久しぶりだよね~」

「はいですの。ミカエルにも,ちゃ~んとお菓子を用意してるんですのよ」

「お,さすがだね~」


・・・妹達の声をBGMに,航は昨夜の会話を思い出していた。



「もしもし,鞠絵?夜遅くにごめん。まだ起きてた?」

「はい,兄上様。こんばんは。まだ起きてますよ。ちょっとご本を読んでいましたので・・・どうかされましたか?」

「いや・・・用というほどのものじゃないけど。その・・・今朝はごめん。せっかくのゴールデンウィークが騒がしくなっちゃうな・・・」

携帯の向こうから,鞠絵がクスリと笑う声が聞こえた。

「いいんですよ。お二人からは,いつも元気をもらってますので・・・兄上様こそ,引率お疲れさまです」

「まったくだ。そっちに着くまでに疲れそうだよ」

「ふふっ,お待ちしていますね」

「ところでさ」

「はい」

「鈴凛からの電話って,いつくらいにあったの?まさか事前に話が着いているとは思わなかったからさ」

「2~3日前ですよ。ゴールデンウィークに白雪ちゃんと一緒に行っていいかって。どうしても兄上様と一緒にいたいって,お願いされました。それで・・・」

「その時,学校でのレポートのこともいってた?」

「はい。私にも教えてもらいたい,っていってましたよ」

「あいつめ・・・」

「他の皆さんが今海外ですから,淋しいのかもしれませんね」

「そんなことをいったら鞠絵なんか・・・」

航の声が暗くなる。

「いいえ,兄上様」

鞠絵が慰めるようにいった。

「私には,兄上様がいらっしゃいます。なかなかお会いすることができませんが,お声とメールだけで十分ですよ」

「そういってもらえると嬉しいけどさ・・・」

航が言葉を続ける。

「いつでも会える鈴凛達と,すぐには会えない鞠絵とじゃあ,やっぱり違うよ・・・」

「・・・兄上様,お心遣いありがとうございます。もう,それだけで私は・・・」

会話が暗くなったことを気にしたのだろう,鞠絵が努めて明るい声でいった。

「じゃあ,一つだけ願いがあるのですが・・・」

「ん,いいよ。何だい?」

「その・・・『鞠絵,おやすみ』っていってもらえませんか?」

「いいけど・・・いつもいってるよ?」

「いえ・・・そうじゃなくて・・・その・・・妹じゃなくて,彼女のように・・・」

「『彼女』なんつーもんは,生まれてこの方いた試しがないんだが・・・」

航が苦笑する。

「え・・・,あ,兄上様,ご,ご,ごめんない。わたくし,変なことをいってしまって・・・」

「大好きな鞠絵,おやすみ」

「あ・・・」

「これでいいかな,鞠絵・・・鞠絵?」

「・・・大好きな兄上様,ありがとうございます。おやすみなさい」

「うん,おやすみ。また明日ね」

「はい・・・」

電話が切れた。

「はて・・・あのいい方でよかったのかな?」

航が首をかしげる。

「『彼女』ねえ・・・。彼女なんてつくったら,鞠絵もそうだけど,咲耶に何ていわれることやら」

苦笑すると,航は部屋の電気を消した。



「でもさあ,晴れてよかったよね~」

「ホントですの」

「白雪ちゃん,そのバスケットってさあ,ひょっとして期待しちゃっていいのかなあ?」

「もちろんですの。姫特製のスペシャルおにぎりですのよ。にいさまも召し上がれ!」

妹達のはしゃぐ声で,航は現実に引き戻された。

「うん?あ,ああ。ありがとう,白雪。じゃあいただこうかな」

3人で,白雪がつくってくれたおにぎりにぱくつく。

「・・・アニキ,そういえばさあ,鞠絵ちゃんの着メロって,胃腸薬のCMの曲だっけ?」

「あのな・・・ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』だよ。音楽の授業で聞いたことあるだろ」

「あるようなないような・・・アハハハハ。私ってさあ,音楽の時間って睡眠時間なんだよね~。でもそれって鞠絵ちゃんをイメージしてるの?」

「ま,そういうこと」

「ちなみに私の着メロは?」

「ベートーベンの『運命』」

「ジャジャジャジャーン・・・それってどーゆー意味!ひどくない?」

「お前への資金援助が,ある意味『運命』だからな」

航が笑う。

「うう・・・なんか納得いかないなあ・・・」

鈴凛はやや不服そうだ。

「姫の着メロは何ですの?」

白雪のリボンが少し揺れる。

「モーツァルトの『トルコ行進曲』だよ。白雪っぽくていいと思って」

「いやーん,にいさまがそこまで思ってくれるなんて。姫,感激ですの!」

顔を真っ赤にしてうつむく。

「いやいや。よく似合ってるよ」

「あのさー,なーんか私だけ差別されている気がするんだけどなー」

「その分資金援助してるだろ。何なら援助をやめようか?」

からかうように航がいう。

「参りました」

鈴凛が頭を下げる。

「分かればよろしい・・・ところでお前達」

航が改まって二人にいう。

「鞠絵の療養所まで行くのはいいけど,向こうで何のレポートをまとめる気なんだ?」

「へ?」

「え?」

二人ともキョトンとした顔をする。

「へ・・・って,レポートのテーマを考えてないのか?」

鈴凛が頭をかく。

「いや~,そこんところもアニキにお願いしようかな~って思ってたんだけどさ」

「姫もですの・・・」

「・・・」

航がジト目で二人を見る。

「え・・・と,アニキ,ひょっとして怒ってる?」

「あきれているんだよ!」

「ごめんなさいですの・・・」

「でもでもでも,やさしいやさし~いアニキのことだから,きっと考えてくれる・・・よね?」

苦虫を噛みつぶした口調で航がいう。

「今さら電車を降りろともいえんだろうが・・・鞠絵も向こうで待ってるし・・・ったく。今回だけだぞ」

「やったーっ!アニキ,愛してるよ!」

「姫もにいさまを愛してるですの!」

二人が航に抱きつく。

「わわっ,二人ともやめろ~!電車の中でこれ以上騒ぐな抱きつくな~!」

航は,乗客の視線が背中に突き刺さりまくっているのを感じながら,無理矢理二人を引きはがした。

「え~,もうちょっとぐらいいでしょ~」

「ですの~」

「人前ではやめてくれ」

「じゃあ,人前じゃなかったらいいの?」

「うう・・・,ま,それはさておき,話を元に戻すとだな」

航が強引に話題を変えた。

「古典と日本史の教師を同時に満足させるテーマということだよな・・・」

「うん・・・」

鈴凛がしかめっ面をする。

「やっぱりにいさまでも難しいですの?」

白雪が心配そうに航を見た。

航は指をあごにあてて,少しの間考える。

「実は,あてが無いこともない」

「え,ホント!」

「ホントですの!」

「というか,そもそも『それ』を検討するために,鞠絵のところに行くつもりだったんだよ」

「さすがにいさまですの!」

「も~,もったいぶらずに教えてよ~,なになに?」

航は,小さく微笑みながら二人にいった。

「・・・『桃太郎』っていうのはどうかな?」

「「えっ,『ももたろう~』!?」」

二人の声が,綺麗にシンクロした。電車の中に響き渡る。


(つづく)

※※※

・・・ということで,やっと桃太郎が出てきました(名前だけですけど)

次回からやっと,私の鞠絵ちゃんが本格的に登場します。

どういう話の展開になるのでしょうか?

マジで今考えてます。

仕事中も(笑)


<コメントレスです>

>ゆたんぽさん

12妹の一人称ありがとうございます!

実は鞠絵の一人称ですが,前回も結構悩みました。
「わたくし」とひらがなで書くとセリフがちょっと堅苦しいかなあ・・・と思いまして,わざと「私」と漢字にしています。脳内で「わたくし」とルビを振ってください(笑)

鈴凛の場合は,逆に「アタシ」とした方がイメージにあうと思うのですが,「アニキ」・「アタシ」とカタカナが続くとこれまた読んでてどうかなあ・・・と思いまして,「私」とそのままにしています。

春歌は「ワタクシ」でぴったりなんですけどね~(笑)
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