はるきげにあ的煩悩生活
鞠絵ちゃん、誕生日おめでとう!
「桃太郎 VS Twelve Sisters!」(その8)
(その6 鬼さんこちら,手の鳴る方へ)

「その答えはこれから分かるよ」

航は言葉を続ける。

「最後は,いよいよ『鬼』についてだね。まず,鬼といったら何を連想する?」

「えーと,上半身裸で頭に角が生えてて虎縞のパンツをはいている・・・かなあ」

「全身が赤か青で,髪の毛がもじゃもじゃで,鉄の棍棒をもってるですの」

「うん。絵本だとそういう鬼が多いね。他には?」

「そうですね・・・」

鞠絵が少し首をかしげる。

「人里近くではなく,山奥の洞窟に住んでいるイメージがありますね」

「なるほど。これで『鬼』のイメージが大体出揃ったかな」

航が妹達を見回した。

「じゃあ,謎解きを始めようか。最初に言っとくけど,生物学的に『鬼』という種は存在しないよ。当然だけどね。『鬼』と呼ばれた人達がいただけだ」

「!」

鈴凛と白雪が驚く。鞠絵は予想していたのか表情を変えなかった。

「アニキ,『鬼』って人間だったの?」

「そうだよ。ある特定の人間の集団のことなんだ」

「集団・・・ですの?」

「上半身裸で,鉄棒を持ってて,山に住む集団・・・鞠絵,どうかな?」

「製鉄民のことですね」

「せいてつみん・・・て何?」

「山で鉄を作って暮らしていた人達のことですよ。農機具や武器も鉄がないとできませんからね。今も昔も,とても大事な産業です。もちろん,その人達は鉄だけを作っていたわけじゃないですけどね」

「山で鉄を?どうやってですの?」

「鉄ってさ,鉄鉱石と石炭で作るんじゃないの?」

その問いには航が答えた。

「今はね。実はそっちの方は,まだまだ歴史的に新しいんだ。日本では昔は・・・といっても,江戸時代や明治時代のことだからそんなに昔じゃないけど,鉄は砂鉄と木炭からつくってたんだ」

「砂鉄って,砂場の中に磁石を入れたら採れるやつだよね。木炭って備長炭とかのこと?」

「そうだよ。しかしよく備長炭なんて知ってるな」

「いや~,焼鳥屋さんには必ず『備長炭使用』って書いてあるからさ」

「鈴凛ちゃんは焼鳥屋さんに行くんですか?」

鞠絵の問いに,鈴凛はなぜか焦った。

「いやーっ,夕方になると美味しそうな匂いがするからさ~。つい買っちゃうんだよね~。あ,でも焼き鳥だけだよ」

「当たり前だろ。一緒にビールなんか買うなよ。未成年なんだから」

「ギクッ」

「鈴凛ちゃん,今のリアクション変ですの」

「あはははははは・・・」

「・・・まあそれについては後でじっくり聞くことにしよう。話を戻すぞ」

航が一つ咳払いをする。

「製鉄民は山の中で鉄を作っていたから,『鉄の棒』と『上半身裸』は納得かな?」

「うん。でも角と虎のパンツと肌の色は?」

「角と虎縞の下着は,陰陽道の『鬼門』に関係するらしいね」

「『鬼門』・・・というと,丑寅の方角で,今だと東北ということでしょうか?」

「・・・分かったですの!『丑』は『牛』で二本の角,『寅』は『虎』で虎縞のパンツですの!」

「でもさ,一本角の鬼もいるよ?」

「うう,そうでしたの・・・」

「いや,いいところまで行ったよ。『鬼』は仏教が伝わってから,『地獄の獄卒』っていうイメージも追加されたからね。そこで一本角や二本角の鬼ができたのかもしれない。なぜか三本角以上の鬼は見ないけどね・・・逆に言うと,そのおかげで『鬼』はより恐ろしい存在になってしまったともいえるけど」

「兄上様,鬼の肌の色はどうなんでしょうか?」

「ああ,それが残っていたね。鉄を作るわけだから,炉の照り返しで日焼けみたいに肌が赤くなったのじゃないかな?」

「アニキ,それだと青鬼の説明がつかないよ?」

「うん,まだ説明が不十分だったね・・・。製鉄民は山で暮らしていたわけだから,当然鉄以外の鉱物も詳しかったんじゃないかな。とすると,鬼の赤の色は『辰砂』すなわち『丹』,青の色は『岩緑青(マラカイトグリーン)』を表していたと考えられるんだ」

「にいさま,その『丹』と『岩緑青』って何に使ってたんですの?」

「『丹』は水銀でね,漢方薬や建物の塗料として使ってたんだ。『丹』を塗ると,赤色というより鮮やかな朱色かな。神社の鳥居の色だよ。『岩緑青』は緑色の塗料だね」

「え,アニキ,水銀って有毒じゃあ・・・」

「その通り。微量でも水銀中毒をおこして,最悪死んでしまう。でも,昔は不老不死になるための薬だとか言われて珍重された」

「うわあ・・・」

「まあ,そういった山の鉱物のスペシャリストでもあったということだね」

「・・・あのさ,アニキ」

「ん,何かな」

「製鉄民の人達ってさ,自分達で鉄を作ったり,鉱物を掘ってたりしてたんだよね?」

「そうだよ」

「じゃあ,なんで『鬼』って呼ばれたり,退治されたりしなくちゃいけないわけ?」

「そうですの。その人達は,何も悪いことをしていないですの!」

「それはね」

航はさらりと言った。

「抵抗したからさ」

「え,何に?」

「大和朝廷にだよ」

「・・・それだけ?」

鈴凛が眉を寄せる。

「そう,それだけ。でも,大和朝廷の貴族達にとっては,それで十分だったんだよ。なにしろ,抵抗する製鉄民達を死人と同じ扱いにしたからね」

「どういうことですの?」

白雪も眉を寄せる。

「『鬼』イコール『怪物』というイメージが今は強いけど,『鬼』という漢字はもともと『死者』という意味があるんだ」

「え,そうなの?」

「そうなんです。『死ぬ』ということを『鬼籍に入る』ともいいますからね。日本でも『鬼=死者』という意味はありますよ」

鞠絵が補足する。

「うん,よく調べたね。つまり,『大和朝廷に抵抗した製鉄民=死んだも同然=鬼』ということかな」

「それはひどいですの・・・」

「それだけじゃないよ。抵抗する製鉄民に,大和朝廷はさらに『呪い』をかけたんだ。今も続く『呪い』をね」

「今も続く・・・ですの?」

「ヒントは子どもの頃,誰もが必ずやった遊びだよ」

「う~んと・・・あ,『鬼ごっこ』ですの!」

「ご名答」

「でもさアニキ,『鬼ごっこ』がどうかしたの?ただの子どもの遊びでしょ?」

「そういうと思った。じゃあ,ルールを説明してごらん,白雪」

「はいですの。まず,じゃんけんで鬼を決めて,みんなで逃げ回って,鬼がそれを追っかけるですの。で,鬼に捕まったらその人が今度は鬼になって,同じことをするですの。にいさま,これでいいですの?」

「うん,ありがとう。それが答えだよ」

「・・・兄上様,どういうことですか?」

「『鬼に捕まる』ということは,『鬼に触られる』,すなわち『鬼と接触する』ということを意味してるんだよ。つまり,大和朝廷に抵抗する製鉄民と接触する者は,同様に『鬼』と見なすということさ。だからみんな『鬼』から逃げるんだよ。朝廷に討伐されて,殺されて,本当の『鬼』になってしまうから」

「・・・」

妹達は沈黙したまま航を見つめる。

「『鬼ごっこ』は,そういうことを子どもの頃から脳みそに刷り込むための遊びなんだよ。最初に考えたやつは頭がいいね」

「・・・」

少しして鈴凛が口を開いた。

「ちっちゃい頃さ,さんざんみんなで鬼ごっこをして遊んだけど,そんなに深い意味があるとは知らなかったなあ・・・でもそれホント?いや,アニキを疑うわけじゃないけどね。なんかイキナリそんなこと言われても信じられなくてさ~」

航が苦笑する。

「まあ,それもそうだな。でも,遊びの内容だけなら,『追いかけっこ』でもいいはずだろ?何でわざわざ『鬼』をつける必要がある?しかも『ごっこ』だろ?字面だけなら,『鬼になったらこういう扱いを受ける』というシミュレーションってことだな」

「そっか,そうだよね・・・」

「つまり私達は,子どもの頃から無意識のうちに,『鬼は悪』ということを刷り込まれていたということですね」

鞠絵がまとめる。

「そういうこと。『鬼』については以上かな」

航が軽く背伸びをする。

「ここで少し休憩にしようか。お前らもさっき言ったことをノートにまとめておけよ。後で苦労するぞ」

「え~,アニキ手伝ってくれないの~?」

「後でチェックはするけど,最初からはダメ。こういうのは自分でまずしないとな」

「はいですの・・・」

鈴凛と白雪がしょげる。それを見て鞠絵がクスリと笑った。

「私の部屋でまとめませんか?紅茶をお入れしますね。お菓子もありますよ」

「やったー!」

「うれしいですの!」

「じゃあ,お言葉に甘えようかな。日も傾いてきたし。鞠絵の部屋にお邪魔するね」

「はい,歓迎いたします。兄上様」



※※※

「明日には・・・」といっておきながら,日が経ってしまいました。

すいません・・・

ということで,第8話です。

航くんのセリフが,宗像教授とQEDの祟を足したみたいになってますね・・・

コメントレスは明日します~
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